【プロが認めた匠の技】建築写真家・小林 勇蔵さん
施主の想いを写真に込める
インテリアが大好きで大手家具会社に勤務していた小林勇蔵さんが、建築写真家である父親の勧めもあってこの道に入ったのは1999年。
大型建築の撮影が多かった父親と異なり、住宅写真を数多く手がけることになったのは、インテリアが好きだったことと無縁ではないようです。
「わずか3cmの違いでも使い勝手やデザインの印象が変わってくる住宅は、施主の想いや設計者の意図を感じることができるので、撮影していて本当に興味が尽きないのです(小林さん)」
小林さんがいつも心がけているのが「いかにして、建物に込めた施主の想いを写真で表現するか」ということです。
施主はどんなデザインの家にしたいと思っていたのか、どういう使い勝手にこだわったのか・・・その想いを表現するために、構図はもちろん光の具合や空気感にもこだわって撮影します。
施主が、その写真を見て喜んでくれた瞬間は「やはり最高ですね(小林さん)」
設計:株式会社山本浩三建築設計事務所 撮影:小林 勇蔵
設計・フリーダムアーキテクツデザイン株式会社 撮影:小林 勇蔵
著作権使用料への想い
自らが撮影した写真の著作権にこだわり、作品の施主や建築家であっても使用料を請求する写真家もいる中で、小林さんは、施主や建築家に対しては写真の使用料をフリーにしています。
「建築写真というのは、施主の想いに建築家が応え、その結果としての住宅があってこそ撮影できるのですから、撮影した写真は施主・建築家・写真家である私・・・三者の共同制作でもあると思うのです。だから自分一人が著作権料を主張する気にはなれませんし、施主さんが写真を年賀状やブログなどで使って喜んで頂けるのならば、それはとても素晴らしいことじゃないかと思うのです」
仕事というのは自分一人の力だけでできるものではない・・・この謙虚な姿勢こそが、数多くの小林ファンが仕事を依頼する理由ではないでしょうか。
設計:ダトリエ一級建築士事務所 撮影:小林 勇蔵
設計:株式会社sside 撮影:小林 勇蔵
家を創ることを楽しんでほしい
完成した住宅で撮影している時、施主さんが小林さんに(完成した自邸について)さまざまな本音を話すそうです。
そうした話を聞き、ファインダー越しに千軒を超える数多くの住宅を見てきた経験から、小林さんは最後にこんなアドバイスをくれました。
「建築家と住宅を創るということは、施主にとっても共同作業に参加することであり、そのことを楽しんでほしいと思います」
「建築家・施主どちらかが一方的にリードするのではなく、共に手を携えて同じ方向に進むことができた住宅は、本当に満足できる素晴らしい住まいになりますよ」
そんな住宅の写真を撮影できた時は、小林さんの気持ちも和むそうです。
ケイ・エスト・ワークス
http://www.k-est.co.jp/
設計:フリーダムアーキテクツデザイン株式会社 撮影:小林 勇蔵
取材後記
インテリアが大好きというだけあって、小林さんの自宅を兼ねたスタジオには、センスのよい家具や置物が並んでおり、素敵なカフェに来たようなとても居心地の良い空間でした。 (取材:上野)
私が推薦します
建築家
坪井 当貴
小林さんはこちらの設計意図や住宅の見せ場などを瞬時に理解し、独特な目線でカットを切ります。
設計者や撮影する側の視点だけではなく、直接会わない施主さんへの配慮を忘れず、この家の良さを写真というフィルターを通して施主さんにお伝えするという小林さんの写真に対する向き合い方に共感します。
出来上がった写真には小林さんの繊細な観察力と「心地よい客観性」が同居しています。
お施主さんにとってこの写真は私たちとの家づくりの大切な記念になっているようです。
坪井当貴建築設計事務所
https://www.pla-navi.com/architects/office/438/