「とまとみそ」が大人気!高知県の小さな村のお母ちゃんたち「わのわ会」の活躍に、全国が注目
テレビでも紹介されて全国的に知られるようになった「とまとみそ」は、規格外トマトから作られたサステナブルな商品です。この商品は、高知県の日高村という人口4800人ほどの小さな村から生まれました。
販売するのは、村のお母ちゃんたちが設立した「わのわ会」です。わのわ会は村中の困りごとを解決しながら、村の魅力を外に発信し、その活躍ぶりは全国から視察が訪れるほどだといいます。
「もったいないから全部始まっているんです」と笑顔で話すわのわ会の安岡千春さんに、村の魅力や、地域活性化への思いを伺いました。
目次
トマトは和風?おでんや味噌に、日高村の甘いトマト
特定非営利活動法人日高わのわ会を設立した安岡千春さん。日高村で生まれ育って64年だという。
━━ 日高村はどんな村ですか?
日高村は、高知市内から16キロ離れたところにあり、市内まで30分で行けます。JRの駅も3つあり、空港も40分で行ける便利な村です。仁淀川が流れていて、おいしいトマトもあります。
移住者が増えて、近年では社会増になりました。トマト農家さんを目指す人も多いですね。
━━ やっぱり日高村はトマトなんですね。
わのわ会では、規格外のフルーツトマトを使っていますが「これ、規格外なの?」ってみんな言うぐらいおいしいですね。
今の時期は、そうめんにトマトのおでんを入れて食べるとおいしいです。トマトを湯むきして、濃いめのだし汁に漬けておいて、それをとっても冷たくして、そうめんの上に乗せるんです。トマトはイタリアンだけじゃなくて、和風にも使えるんですよ。
━━ 人気の「とまとみそ」も和風です。
とまとみそは、メイドイン日高の商品をつくることを目指して生まれました。村のおばあちゃんたちが作る「さんさんひだか味噌」と、おじいちゃんたちが作るニンニク、息子たちが作るトマトを、嫁が混ぜて作ります。あとは隣の宇佐町から分けてもらったものですが、高知のカツオを使っています。
次々に起きる「困りごと」でも、ワクワクして楽しかった
━━ とまとみそもパスタソースも、規格外のトマトを使っていますね。
障害のある方と農家さんに手伝いに行ったのがきっかけでした。
何日も放置されてるトマトがあって「もったいないね」って言ったら「持って帰っていいよ」と言っていただいたんですね。それで、お母ちゃんたちと毎日毎日、喜んで持って帰っていたら、冷蔵庫がトマトでいっぱいになってしまった。
知人のシェフに相談したら、パスタソースにしたらどうかと提案されたんです。それで、わのわ会で運営していたお店のメニューに使ったんですね。そのうちソースだけ買いたいと言う人がいたので、ソースを商品化しました。
商品にしたらガンガン売れると思って、トマトを買い取ったんですよ。そしたら今度は冷凍庫がトマトでいっぱいになってしまって、担当者は「トマトのこと考えたら胃が痛くなる」と言い始めました。
もっと村の外にまで売れる商品を作らないといけないと思い、県の勉強会や、高知大学のフードビジネスクリエイターのプログラムで勉強しました。
わのわ会の活動は「困った」から全部始まってるんですよ。トマトが捨てられる、トマトをもらいすぎた、商品にしたらいっぱい余った、それで「困った」って。
━━ 困りごとを解決していくのは、大変ではないですか?
ワクワクして楽しかったですよ。だって、知らないことを知るってすごく楽しいじゃないですか。
販売は苦労しましたけどね。お母ちゃんたちは資格を持っているわけでもないし、販売なんてしたことがなかったですから。「掛け率と値入れ率ってどういう意味?」みたいな。企業さんによって言い方が違うから「どういう意味ですか?」っていまだに聞きますね(笑)。
━━ 社会貢献をしながら、今ではしっかり事業として成立させているのがすごいです。
企業の中には、社会貢献を建前としてPRする企業もあって、本当の社会貢献に至ってないと感じます。一方で、NPOはお金をあまりもらわず、人の困りごとを、自分の人生をかけてやるっていうイメージが強いと思います。
そういう企業とNPOの中間の部分ができるとすごくいいなと思っていますね。先日、新しく若い男性が入ったんですが「給料は安いですが、いいですか」って言ったら「頑張って上げていきましょう」と言ってくれました。そうやって前向きに入ってくれる人がいますから、その人に合った場所をつくりながら、きっちり給料を稼いでもらいたいですよね。
お母ちゃん、高齢の方、障害のある方が認め合った2年間
━━ そもそも、わのわ会が始まった経緯は?
20年ほど前、私は子育て支援センターの保育士でした。センターには、高齢の方、障害のある方、 アルコール依存症の方のデイサービスもあるんですが、どこも対象者が10人もいない状態でした。それなら一緒にデイサービスをやろうということで、障害のある方たちが子どもと一緒に遊びながら面倒見てくれたり、おばあちゃんに習って子どもの浴衣を作ったりしましたね。
そこで、高齢の方に今の子育ては大変だねと言われたり、障害があってもメディアで言われるような怖い人たちじゃないよねと話したり、お互いを認め合う時間が2年くらいありました。
その期間を経て、お母ちゃんたちと「みんなで何かできるといいね」ということで、わのわ会が始まりました。
わのわ会のお母ちゃんたちの活動の様子
━━ それが福祉サービスなど様々な事業の土台になってるんですね。
そうですね。最初は、子どもたちのために動く紙芝居をつくったんですが、その時に、自然と担当が分かれたんですね。絵を描くお母ちゃん、ストーリーを考えるお母ちゃん、演出を考えるお母ちゃん、子守をするお母ちゃんという感じで。
わのわ会の「できる人が、できる時間に、できることを。」という考え方も、その頃から始まったと思います。その紙芝居は、コンクールに出したら入賞したんですよ。
それから、行政から「高齢者のための健康センターができるから、サポートをしてほしい」と言われて活動が広がっていきました。
ただ、当時は無償のボランティアだったんです。無償だと、中にはあまり責任を感じられない人もいますから、担当の日に用事で来ない人が出てきました。そうすると「いいわよ、私がやっとくから」とサポートしてくれる人がいるんですが、それが毎回同じ人で、だんだん負担になっていく。
だから行政と交渉して、 有償ボランティアにしました。1回400円で、本当にお小遣いみたいですけどね。それが、今の色々なサービスをつくることに繋がっています。
できることやできる時間があるのに、もったいない
━━ 現在のメンバーも村のお母ちゃんが中心ですか?
そうですね。色々な雇用形態で、自分のライフスタイルを崩さずに働けることはずっと大事にしています。
子どもが保育園にいる時間だけパートで働いて、子どもが中学生や高校生になって、手はかからないけどお金がかかるようになったら常勤雇用になる人もいます。そして介護でパートに戻る人もいれば、年配の方は自分の生活も楽しみたいからと辞める人もいます。
━━ できる人が、できる時間に、というのをずっと実践されてるんですね。
わのわ会は、人や時間、物事、あらゆる「もったいない」ことに目を向けています。
おいしいトマトが捨てられてる。お母ちゃんたちも障害のある人たちも、できることやできる時間があるのに、今の社会の枠にはまらないから仕事ができない。女性は子育てですぐ休むからって雇ってもらえない。全部もったいない。できる時に、できることができたら1番いいです。
わのわ会の活動の様子
次は終活での地域貢献へ。自分たちで地域を守る理由
━━ 今は、消滅可能自治体と言われるように、地域の今後に不安を感じる人も多いと思います。何ができると思いますか?
まずは「自分たちの地域は自分たちで守ろうよ」という意識が生まれるといいと思います。自治体がなんかしてくれると口開けて待ってるんじゃなくて、自分たちから提案する。自分が変わらないと何も始まらないんだから。
行政が、みんなでどうにかしないといけないと不安があるにも関わらず、住民に伝えられてないことも問題だと思います。それで、行政が全部決めたら「いやいや、そんなの地域に必要ないよ」というミスマッチも起きている。
こんなことが地域にあったらいいと言えて、それを理解してくれる行政との関係性ができれば、小さい自治体でもやっていけるんじゃないでしょうか。
━━ わのわ会はまさに、自分たちから始めて、行政と連携しながら活動していますね
ただ、わのわ会と同じことを他の地域でやるのは難しいと思います。
地域で生活している人たちだからこそ、その地域の困りごとの解決策を考えて行動ができます。そういう人たちがもっと増えたらいいですね。
わのわ会の活動の様子
━━ 今後、わのわ会、そして安岡さんご自身は何をしていきたいですか?
これまで、幼馴染の浜田に理事長をお願いしていたんですが、今年5月に私が理事長になりました。
ただ、これから10年先も私が理事長をやっていくことを考えてはいないんです。若い人と世代交代できるように、今までの20年を土台にしながらネット社会に適応して、新しい形をあと5年くらいで仕上げたい。企業でもないNPOでもない、その中間の形です。今でいうならゼブラ企業に似ているかな。
そのあと、私自身がやるのは、絶対に終活だと思っているんです。終活で地域にお金が回る方法を考えています。それがとっても楽しみです。
━━ 終活まで、仕事にしていくんですね。
若い頃は、子育てしながら自分で託児所を開いて、働くお母ちゃんたちの子どもを預かっていました。そこから始まったように、自分が生活の中で困ったことを仕事にしたいんです。
耕作放棄地も増えてるし、お墓の管理にも困ってるし、空き家も増えてきて、行政は色々やってるけど、どこも困っている状態ですよね。
例えば、私が40歳だとして、80歳の人に「終活しましょう」って言ったら「早く死ねっていうことか!」ってなりますよ。でも、自分が当事者になったら「みんなでやろうよ」って言えるじゃないですか。だから、人生かけて色々なことができるといいなって。それで地域にお金が回るように考えています。
自然が豊かな日高村
◇◇◇
私たちが住む地域には、それぞれの困りごとがあり、もったいない資源がたくさんあります。
誰かに任せるのではなく、当事者として声を上げ、当事者だからできる活動をすることは、今の時代、特に必要なのかもしれません。
困りごとをパワフルに、ワクワクしながら解決していく安岡さんの活力に、編集部一同、鼓舞された取材でした。
高知を訪れた際には、ぜひ日高村に足を伸ばし、わのわ会の活動に触れてみてはいかがでしょうか。
シリーズ一覧