【プロが認めた匠の技】家具職人・請地 央敏さん
見えないところに精根込めた特注家具を創る
落ち着きのあるホテルのロビーやラウンジは、そこにいる人々をとても豊かな気分にさせてくれます。
空間を構成するインテリアは控えめでありながらも高級感があり、そこにはゆったりとした時間が流れています。
住宅のインテリアに特注家具を取り入れようとする建築家や施主が、請地家具製作所を頼るのは、そんな穏やかで洗練された空間を実現させたいと願うからです。
東新宿の地で三代に渡って続く請地家具製作所の代表・請地央敏さんは、建築家が設計する住宅の特注家具製作を中心に活動しています。
施主の要望をまず第一に
施主や建築家は、基本的にデザインや使い勝手に関する要望が中心となることが多く、家具の強度や耐久性にまでは想像が行き届かないこともあります。
そんな時、請地さんは「あくまでも施主や建築家など発注者の家具への想いを第一に考えて、要望を実現させつつ強度や耐久性にも問題がないようにするにはどうすればいいかを徹底的に考え抜いて提案する」と言います。
単に家具として考えれば強度や耐久性は重要な要素ですが、インテリアとして空間を演出するものでもあるだけに、施主や建築家の想いを大切にしてあげたいと考えているからです。
見えない部分こそ徹底的に作りこむ
その一方で、デザイン性や使い勝手を大切にしてあげたいからこそ、強度や耐久性を守るためには見えない部分もおろそかにせず徹底的に工夫して作り込むことが必要だと、請地さんは強調します。
「見えない部分への丁寧な対応によって強度や耐久性に差がつきますし、何十年使って頂いてもデザイン性や使い勝手を損なわない家具をお届けしたいと思っていますから」
特注家具を製作する場合、木と木のつなぎかたなどで「どちらのやり方を採用しても外観にほとんど違いはないし、強度的にも大差がない」というような状況があります。
そんな時こそ「どちらでも大丈夫と安易に考えるのではなく、例えごく微妙な差であっても、敢えてどちらにした方が強度やデザインに良い影響を与えるのか・・・最低5秒は考えろ」というのが請地さんの若い職人への口ぐせで、請地さん自身は5秒どころか、しばしば長考してどうすればベストなものができるかを考え抜いています。
依頼主の要望を叶えながらも、細部に至るまで思い入れを込めて家具製作をする請地さんの評判は、建築家や施主の口コミで広がり、海外在住の日本人から「日本品質の家具を入れたい」と言われて、工房で製作した家具を現地に出向いて納品したこともあるそうです。
この仕事を次世代に受け継いでいきたい
そんな請地さんの現在の目標は「若い人たちが魅力を感じてくれるような工房にすること」です。
周りの仕事と比べても、やりがいがあって収入も決して引けを取らない。
家具職人をそういったレベルの仕事にしていかなければ若い人たちは入ってこないし、そのためにも自分自身が率先して魅力ある家具職人にならないといけない・・・請地さんが、家具製作に情熱を燃やし細部に至るまで精根を込めているのは、こうした想いもあるからです。
「自らを継いでくれる若手によって、素敵なデザインと優れた品質を兼ね備えた家具がもっと広く世に出ていくのならば、請地家具製作所という名前にも全くこだわりはないです」請地さんは力強くそう話していました。
請地家具製作所
http://ukechi-kagu.com/
取材後記
細部にこだわる家具職人さんと伺っていたので、どんな難しい方かと身構えていたのですが、お話を伺っている最中、穏やかな笑顔を絶やすことのない請地さん。
多くの建築家や施主さんから信頼される理由が分かりました。 (取材:上野)
私が推薦します
建築家
村上 太一・村上 春奈
いい建物は、よくできたお吸い物のように、旬や好みによるさまざまな具材が入っても邪魔をせず、旨味を引き立てる包容力のあるものであるべきだと思っています。
いいお吸い物の出汁のように上質な空気感で空間を満たすには、使い勝手や光の入り方、床・壁・天井の色や素材への配慮などの他、丁寧な仕事がとても重要になってきますが、既製品をどんどん入れていくと、様々な仕上げやディテール、考え方が空間に混在してうるさくなってしまうため、私たちは造作家具やキッチン、建具などの面材や納まりも極力統一させるようにしています。
造作家具をつくる請地家具製作所の請地さんたちは、私たち設計者や施主の意図をしっかり汲み取り、手間を惜しまず繊細な仕事をしてくれるので、家具が納まると空間の骨格がしっかりし、ほどよい秩序と緊張感が滲み出してきて、上質な旨味の広がる出汁のように生活空間を支えてくれる、縁の下の力持ちのような存在です。