奨学生に、家具を無償提供。通販大手ディノスが始めたサステナブルな社会貢献
学費の高騰や、家庭の収入減少により、日本の大学生の約半数が、奨学金を受給しながら学んでいます。そんな学生を応援するため、家具を無償提供するプロジェクトがスタートしました。ディノスの新品家具レンタルサービスflect(フレクト)の「奨学家具」です。
家具の通販をしてきたディノスが、なぜ学生支援を始めたのでしょうか?奨学家具を担当する藤田博基さんに伺いました。
「奨学生を具体的に支援できないか」3社の思いからスタート
──flectはどういうサービスなんでしょうか?
一言で表すと「試して買える、新しい家具レンタル」です。レンタルできる商品は、ディノスが厳選した新品の家具3000点です。コンビニは1店舗で約3000種類ほど売っていると言われます。コンビニのように、厳選されたモノが全部揃っているサービスと考えていただくとわかりやすいかもしれません。
── そこで戻ってきた家具を提供するんですね。なぜ奨学生を対象にしたんでしょうか?
まず、京王電鉄さん、京王不動産さんとディノスで「奨学生応援プロジェクト」を始めました。その一環として2024年2月からスタートしたのが奨学家具です。
奨学金は社会課題になっていますよね。大学生の2人に1人が受給している状態です。そして、返済に回った社会人のタイミングで、生活が困窮しているというデータも見ました。
我々のリソースを使って、具体的に支援する方法を出しあいませんかということで、奨学生応援プロジェクトはスタートしました。
── 奨学生応援プロジェクトはどんな支援をしているんでしょうか?
京王不動産さんは「住み替え応援アクション」として、自社で管理している物件を対象に、フリーレントか仲介手数料無料の割引をしています。京王電鉄さんは「学び場支援アクション」として、コワーキングスペースの無償利用を1年間提供する予定です。
ディノスでは、flectで返却された家具を使って、社会貢献することを以前から考えていたんです。そこで奨学家具のアイデアが出ました。
── 初回の奨学家具を利用した学生の反応は?
例えば、ある学生は、ルワンダの交流団体の代表で、弁護士を目指して勉強していらっしゃいました。また別の学生は、家業の農家を継ぐ予定の方で、その前にビジネスを含め幅広い知識を培いたいという希望をお持ちでした。熱心に勉強されている方々に「非常にありがたいです」と言っていただけました。
「こんなに綺麗なものがくると思わなかった」という声もありましたね。実は、flectはレンタル期間満期の2年間使用されていても、綺麗な家具が多いんですよ。もちろん、お送りする際には、状態がよい家具をさらにしっかりとクリーニングしています。
あとは「折りたたみベッドは、1人暮らしの部屋にはありがたい」と、学生生活に役立っていると伺いました。我々も励みになります。
── 奨学家具の第2回目の応募がスタートしましたね。
はい、1次募集が12月4日からスタートしました。
今回は、奨学金を受給する学生40名に家具を届けます。折りたたみベッドか、デスク&チェアのセットをお選びいただけます。どちらもレンタルサービスのflectで返却された状態のいいものです。無償提供で、卒業後も返却の必要はございません。
初回である昨年は、2大学に限定してスタートしました。今回は対象を広げ、京王沿線に在住もしくは京王沿線の大学に通い、公的奨学金を受給する方がご応募できます。※応募条件の詳細は奨学家具ホームページをご覧ください。
なぜ新品をレンタル?flectの嬉しい仕組み
── そもそも、なぜディノスがレンタルサービスを?
flectは「家具選びで失敗する人をゼロに」をビジョンに掲げています。
例えば、店舗で見たソファがとても素敵で、購入したとします。しかし、家に置いて座ってみると、テレビの位置に対してソファが低いと感じるかもしれません。家具が生活の中で機能するかどうかは、一緒に暮らしてみないとわからないんです。
flectではお試し期間の2年間で、じっくり試すことができます。その後、2年満期で返すもよし、そのまま自分のものにしていただくもよしです。もちろん、途中で返却や買取もできます。
購入される方が多いものの、返却できる安心感に好評いただき、リピート率は非常に高いです。
── 新品をレンタルするのはなぜでしょうか?
試した後に自分のものにしていただきたいという思いから、新品を提供しています。
ただ、お客様からも「新品はありがたいけど、返却した家具はどうなるのか」という声はあります。返却率は低いものの、戻ってくる家具はありますから、どうリユースするのかは考えてきました。さまざまな方法を検討していますが、社会貢献に使おうというのが今回の奨学家具ですね。
奨学生だけでなく、学校、子ども食堂、被災地に提供するなど、いろいろなことが考えられます。今後も返却された家具の活用方法を増やしていきますので、お客様は胸を張って新品を借り、返却いただいて問題ありません。
京王沿線外にも。サステナブルに、支援の輪を広げていく
──家具のリユースは、サステナビリティの観点からも大事ですね。ディノスではこれまでもサステナブルな取り組みをしてきたのでしょうか?
経営課題としてサステナビリティは重要です。一方、ディノスは小売業で、メーカーではないので、商品にサステナブルな素材を採用することには限界があります。
そして、小売業としては、やはりお客様に好きだと思って買っていただきたい。だから「サステナブルですよ」というアプローチと「暮らしに役立ちますよ」というアプローチのどちらがいいかと考えると、現状は後者だと思うんです。そのため、全商品サステナビリティに注力することは難しいのですが、バランスを取りながらいろいろと進めてきました。
ただ、近年はお客様もサステナビリティを意識する方が増えているので、いくつかの分野でよりサステナブルな取り組みができるようになってきました。
例えば、再生プラスチックや、国産材を使用した商品ラインナップに力を入れています。マットレスブランド「ブレスエアー®」では、お客様が購入した商品を回収し、また同じ商品をつくる水平リサイクルを始めました。
── 今後、奨学生応援プロジェクトはどう展開していきますか?
プロジェクトは、まだ始まったばかりです。将来的には、他の企業や大学、沿線の商店街など、協力いただけるステークホルダーを増やしたいですね。そして、京王沿線で成功事例をつくり、エリアを拡大するなど、支援の輪が広がるといいなと考えています。
── 京王沿線の外に広がる可能性もあるんですか?
はい。京王電鉄さん、京王不動産さんも「これはいいことだから、他のエリアでもやっていこう」という気持ちでいらっしゃいます。奨学生の方が嬉しいことは全てプラスと考え、プロジェクトを広く深くしていきたいです。
── 奨学金を受給する学生のみなさんにメッセージをお願いします。
プロジェクトがちょっとでもいいなと思われたら、ぜひ応募いただけるとありがたいです。お知り合いやお友達に広めていただけるのもすごく嬉しいです。あとは「こうした方がいいんじゃないか」「こうしてほしい」というご意見やご要望があれば、何なりと言っていただけるとありがたいですね。
◇◇◇
奨学金の問題をすぐに解決することは難しいかもしれません。それでも、私たちが可能な範囲でリソースを出し合って支援することは、奨学生にとって大きな力になるはず。
藤田さんは、持続的な形で、地道にプロジェクトを広げていきたいとおっしゃっていました。プロジェクトへの想いに「私たちも何かできないか」「少しでも使える資源がないか」と考えさせられます。
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※本記事の内容は、本記事作成時の編集部の調査結果に基づくものです。