
未来を作る新しい農業の形。アクポニが提供する「アクアポニックス」とは?
株式会社アクポニは、神奈川県藤沢市に自社農園を構えるアクアポニックス専門企業です。アクアポニックスとは、水耕栽培(土を使わずに、水で植物を育てる農法)と養殖を掛け合わせた持続可能な循環型農業のこと。同社の代表取締役の濱田健吾さんに、アクアポニックスの仕組みや、循環型社会の実現についてお話を聞きました。
循環によって、野菜と魚が元気に育つ

アクポニが提供するアクアポニックスでは、魚やエビなどを養殖する「魚タンク」とレタスやハーブなどを育てる「野菜ベッド」がつながり、その中を水が循環しています。
魚やエビの排泄物が入った水は、まずフィルタを通ってろ過され、微生物のいるタンクに移動。微生物によって排泄物が分解され、野菜にとって栄養豊富な水が供給されます。
そのため、アクアポニックスで育てた野菜には化学肥料が必要ないうえ、育ちが悪くなる連作障害も起こりません。さらに、野菜が栄養分を吸ったきれいな水が魚タンクに戻るため、魚の養殖のための水換えも不要!
優しい好循環によって、野菜は美味しく、魚は元気に育っていくんですね。
敷地の狭い都市部でもできる次世代農業

同社の農園である「ふじさわアクポニビレッジ」では、アクアポニックスで野菜を育てている様子を見学できます。
農園に入ると、そこにはタワー状の野菜ベッドにたくさんのレタスがズラリ!見たことがない光景にびっくり。タワー状にすることで、単位面積あたりの収穫量が多くなり、土地が狭いところでも効率的に野菜を生産できるそうです。上部から水がぐるぐると循環して、野菜に栄養が行き渡ります。
ここではレタスなどの葉物野菜をメインで育てていますが、トマトやイチゴなど60以上の品目を栽培・実証済みだそうです。農場内では、温度や環境データ、作業データをIoTで自動管理して、魚や野菜の状態を記録。自動出力されたレポートを元に、栽培管理をしています。

床下を見せてもらうと、たくさんのチョウザメや鯉がいました。チョウザメはキャビアが取れるため、淡水魚の中では販売単価が高いそう。都心部など広い土地がない場所でも育てられるよう、植物は地上に・水槽はその下に設置し、効率的に敷地を活用しています。
驚いたことに、水槽からは嫌な臭いが一切しません。溶存酸素濃度が高く、きれいな水が循環し続けているため臭くならないそうです。
収穫作業のない日は、1日あたり30分程度のチェック・お手入れだけで、収穫がある日も4時間程度の作業を2名体制で行えば十分とのこと。従来の農業よりも作業性がよく、生産効率が高いことが伺えます。
気候変動に左右されない安定生産を目指して

アクポニでは、産業ガスメーカーである日本エア・リキード合同会社と共同で、世界的にも珍しい海水を使ったアクアポニックスの実証実験を2025年4月から開始しました。淡水よりも海水のほうが技術的な難易度は上がりますが、海水で育った魚介類のほうが食用としての需要が高く、お客様からの要望も多いため挑戦を決めたそうです。
魚タンクでは食用として広く利用されているバナメイエビを、野菜ベットではシャキシャキとしたシーアスパラガスや海ぶどうを育てています。いずれも、国内では採れなかったり産地が限られているもの。

アクアポニックスには、産地が限られている生き物・野菜を安定的に育てられるというメリットもあるんですね。今後は、酸素ガスを水中に溶かし、エビや野菜の生産効率アップを目指す予定だそうです。
一次産業の新しい選択肢の一つに

ーー農場見学をさせていただき、ありがとうございました。まずは、アクアポニックスを始めた経緯を教えてください。
実家が魚屋だったことも影響して、昔から魚が好きでした。社会人になってしばらくは、新規事業開拓のお仕事をしていたのですが、そのときにブラジルで世界最大の淡水魚であるピラルクを養殖している方から「魚の飼育水を畑に撒いたら、野菜がすごくよく育った」という話を聞いて。
それから魚と野菜の物質循環に興味を持って調べてみると、アクアポニックスというものがあるとわかりました。さっそく、自宅でDIYをしてアクアポニックスを実践してみたんです。するとその噂を聞きつけて、近くの幼稚園から「アクアポニックスの装置を作ってもらえませんか」と依頼が来るようになりました。
ーーそこからどのように事業化したのでしょうか?

幼稚園に展示したときに、子どもが喜んでくれるのはもちろん、親御さんや先生方もとても興味を持ってくれました。すごくポジティブな反応が返ってきたのに驚くと同時に、アクアポニックスは多くの人を喜ばせられる可能性があると感じたんです。
「アクアポニックスについて多くの人に知ってもらいたい!」と思い、まずはブログを立ち上げました。その当時は日本では、アクアポニックスと検索しても何も出てこなかったので、海外の文献を翻訳していくことから始めました。すると、「どこで買えますか」「どこで育て方を教えてもらえますか」というコメントをもらえるようになったのです。
そこで、家庭向けキットを作って販売して、ワークショップも始めました。その後、「商業生産できる規模のものを販売してほしい」と依頼がきたため、アクアポニックスの本場であるアメリカで基礎から学び直し、帰国後、藤沢市に湘南アクポニ農場というのを作り、本格的な販売を始めました。

ーーどのような企業が導入していますか?
2025年現在、全国の52農園でサービス提供しています。そのうちの3割ほどは、自社工場を持っているものづくり企業です。
「工場に排熱排ガスなどの未利用エネルギー資源があり、スペースも余っている」という企業からお声がけいただきますね。工場の横にアクアポニックスを用いた循環型の農園を作り、排熱・排ガスも循環させる機器などもつけることで、エネルギーも効率よく利用できます。
ーーエネルギー循環にも貢献できるんですね。
都心の商業ビルにアクアポニックスを作るという計画を進めているところなのですが、エアコンの排熱をエネルギー源として使う予定です。都心部にアクアポニックスに触れられる場所を作ることで、循環型社会を考えるきっかけ作りにもなると思います。

ーー実際に見てみると、とてもワクワクします。一次産業はもちろん、資源循環について考えさせられますね。
環境問題について考えると、先行きが暗くて不安になってしまいますよね。ところが、アクアポニックスの話をすると、みなさん嬉しそうに聞いてくれるし、農場見学も楽しんでくれるんです。
仕事で農場に訪れた大人からは「子どもにも見せたいので、週末に連れてきてもいいですか?」とよく聞かれます。アクアポニックスには、環境問題をポジティブに捉えさせる力があるんですよね。
ーー今後、アクアポニックスは私たちの生活にどのように関係するでしょうか。
アクアポニックスは資源が限られた乾燥地で生まれた技術です。「資源がない」「食料がない」という危機感はその当時は局地的なものでしたが、今や世界全体に広がっています。限られた資源を循環させていかに無理なく使うかが課題の今、食べ物を持続的に作る方法を企業も社会も模索しています。アクアポニックスは解決策の一つになると思うのです。
アメリカでは、アクアポニックスで作られた農作物は環境によく・安全性が高いとして、高い評価を受けており高値で取引されています。日本でも同じように、循環型一次産業として、産業化していくといいですね。

ーー今後の展望を教えてください。
まずは、消費者の方々に、アクアポニックスの価値を理解してもらいたいです。価値を見出してもらい、高単価で売れれば、生産者も増えていきます。そのために飲食業にも進出し、サラダを販売する構想もしているところです。
さらに、青森県藤崎町でアクアポニックスを導入した「アクアポニックスタウン」を作り、地方創生に取り組もうとしています。地域の未利用資源である廃校を使って観光農園とカフェと公園を整備することで、新規就農や新しい人の循環も生みつつ、一次産業を身近に感じてもらうきっかけを作りたいですね。
とはいえ、弊社だけでは、アクアポニックスを広く知ってもらうことができません。そのため、2025年4月に一般社団法人アクアポニックス推進協会を立ち上げました。国や研究機関などと連携して、生産工程を確立しつつ、認証を出すなどして、アクアポニックスを広げる基盤を作っていきたいと考えています。
◇◇◇
深刻な気候変動や、食糧危機の不安はありますが、農業は進歩しているんですね。未来志向の農業に期待がかかります!アクポニでは、通年農場見学を受け付けています。実際に野菜や魚に触れながら、循環型農業の可能性を体感してみてはいかがでしょうか。
▶︎株式会社アクポニ
取材、文/ゆう
ワタシトJOURNAL
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※本記事の内容は、本記事作成時の編集部の調査結果に基づくものです。
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